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浦和地方裁判所 昭和57年(行ウ)10号 判決

埼玉県飯能市本町六番一一

原告

石井茂

右訴訟代理人弁護士

増岡正三郎

増岡由弘

青田容

同県所沢市並木一丁目七番

被告

所沢税務署長

大島正男

右指定代理人

榎本恒男

池田準治郎

長沢幸男

三ツ木信行

戸川忠志

高林進

右当事者間の昭和五七年(行ウ)第一〇号更正決定等取消請求事件について、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一申立

(原告)

被告が原告に対し昭和五六年八月一八日付でした昭和五四年分所得税の更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分をいずれも取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

(被告)

主文と同旨

第二主張

(原告)

請求原因

一  原告は被告に対し、昭和五四年分の所得税につき別表「確定申告」欄記載のとおり確定申告をした。

二  これに対し、被告は昭和五六年八月一八日付で右別表の「更正及び賦課決定」欄記載のとおり更正ならびに過少申告加算税賦課決定(以下、本件課税処分と総称する。)をした。

三  そこで、原告はこれに対し異議申立をしたところ、被告は昭和五六年一二月一五日付で棄却の決定をした。

四  さらに、原告は昭和五七年一月一二日関東信越国税不服審判所長に対し審査請求をしたところ、同所長は同年五月一〇日付で棄却の裁決をした。

五  しかしながら、本件課税処分は、後記「原告の主張」で詳述するように、原告と訴外株式会社植村工務店(以下、植村工務店という。)との間の土地売買に関する租税特別措置法(以下、措置法という。)三一条の二の解釈適用を誤った違法な処分である。

六  よって、原告は被告に対し本件課税処分の取消を求める。

(被告)

請求原因に対する認否

請求原因第一ないし第四項の事実はすべて認める。同第五項は争う。

被告の主張

一  本件課税処分の経緯

1 原告は昭和五四年六月四日植村工務店に対し、別紙物件目録記載の土地(以下、本件土地という。)を代金一億一、四五五万一、四五〇円で譲渡し、右譲渡代金として同日一、一〇〇万円、同年七月一一日一億三五五万一、四五〇円を受取り、同月二〇日右売買を原因として所有権移転登記を経由した。

2 植村工務店は、代表取締役を同じくする訴外有限会社丸栄(以下、丸栄という。)と本件土地について開発行為を計画し、丸栄は昭和五四年一〇月四日埼玉県飯能市に対し、「飯能市開発行為に関する指導要綱」に基づき事前協議申請書を提出し、昭和五五年二月八日同市と丸栄との間に右要綱に基づく協議が成立し、右両者間において覚書が交換された。

そして、丸栄は本件土地に関し、所有者である植村工務店の同意を得て同月二六日都市計画法二九条に基づき埼玉県知事に対し開発行為の許可申請書を提出し、同年三月三一日右許可を受けた。

3 そこで、丸栄は右許可に基づく工事を植村工務店に施行させて完了し、同年六月一七日都市計画法三六条による埼玉県知事の工事完了検査を受け、同月一八日検査済証の交付を受けた。

4 右のような経緯であるところ、原告は本件土地の譲渡に係る課税長期譲渡所得金額について措置法三一条の二の適用があるものとして前記確定申告をした。これに対し、被告は本件土地の譲渡については譲受人である植村工務店自らが都市計画法二九条の開発行為の許可(以下、開発許可という。)を受けたものではないから、同条に該当しないとして本件課税処分をしたものである。

なお、課税長期譲渡所得金額の計算の明細は、次表のとおりであり、他の所得金額及び税額については争いがない。

〈省略〉

二  本件課税処分の適法性

1 措置法三一条の二に基づく長期譲渡所得についての課税例は、優良住宅等の供給の促進に資する土地等の譲渡について所得税の負担の軽減を図る趣旨で創設されたものである。そして、この法律の適用を受けるには同条二項各号の「優良住宅地等のための譲渡」に該当することを要するところ、本件の場合は同項四号の適用が問題となるのである。

ところで、措置法三一条の二第二項四号によれば、都市計画法二九条または同法附則四項の開発許可を受けて住宅建設の用に供される、一団の宅地造成を行う個人あるいは法人に対する土地等の譲渡で、〈1〉当該譲渡に係る土地等が当該一団の宅地の用に供されるもので、その面積が一、〇〇〇平方メートル以上であり、かつ、〈2〉宅地の造成が当該開発許可の内容に適合して行われると認められるものであること及びこれらの点について大蔵省令で定める開発許可申請書の写等(措置法施行規則一三条の三第一項四号)によって証明されたものであることを必要とする。

2 したがって、本件土地の譲渡が措置法三一条の二第一項に規定する「優良住宅地等のための譲渡」に該当するためにはまず、本件土地の譲渡が開発許可を受けて宅地の造成を行う法人に対する譲渡に該当するものでなければならないところ本件土地の譲受人である植村工務店は、前記のとおり、開発許可を受けておらず、別人格を有する丸栄がこれを受けているものであるから、本件土地の譲渡が右規定の譲渡に該当しないことが明らかである。

(原告)

被告の主張に対する認否

一  被告の主張第一項の1の事実は認める。

二  同項2の事実のうち、植村工務店と丸栄とが代表取締役を同じくすること及び丸栄が植村工務店の同意を得て開発行為の許可申請書を提出し、許可を写けたことは認めるが、その余の点は知らない。

三  同項3の事実のうち、丸栄が右許可に基づく工事を植村工務店に施行させ完了させたとの点は否認するが、その余の事実は認める。

四  同項4及び5の各事実はいずれも認める。

五  同第二項は、1の一般的説明部分は認めるが、その余は争う。

原告の主張

本件土地の譲渡の際、原告と植村工務店との間では、原告が右譲渡所得につき措置法三一条の二の優遇措置の適用を受けられるようにするため、植村工務店が本件土地について開発許可を受け、しかる後に宅地造成を行い、また、右開発許可の書類の写等を原告に交付するとの特約をした。しかし、原告から本件土地の譲渡を受けた植村工務店は、同会社の代表取締役(植村文彦)を同じくする丸栄をして本件土地につき開発許可の申請をさせてその許可を受けたうえで、右開発許可に基づいて訴外株式会社加藤運輸建設に対して本件土地の宅地造成工事を発注した。しかも、丸栄は右開発許可を受けた後間もなく解散したものである。

右によれば、本件土地の譲渡は、契約の当初から開発許可を得て住宅地を造成することを目的としており、譲受人である植村工務店は丸栄の名義で開発許可を受けたが、両会社は実質的にも法律的にも一体性を有するものであり、しかも、開発許可に基づいて住宅地造成を行ったのは植村工務店であるから、優良な住宅地の供給の促進を図る目的で定められた措置法三一条の二の優遇措置が適用されるべきであり、単に開発許可の申請名義人が形式上別個の法人であるとの一事をもって同条の適用を否定することは誤りである。

第三証拠の関係

本件記録中の各証拠の目録の記載を引用する。

理由

一  請求原因第一ないし第四項の各事実は、当事者間に争いがない。

二  原告は、本件課税処分が原告と植村工務店との間の本件土地の譲渡について措置法三一条の二の解釈適用を誤った違法な処分である旨主張するので、以下、本件課税処分の適法性について判断する。

1  原告が、被告主張のとおり、昭和五四年六月四日植村工務店に対し本件土地を譲渡し、同土地につき所有権移転登記が経由された事実は当事者間に争いがなく、原本の存在及び成立に争いのない甲第一号証及び証人植村文彦の証言によれば、右譲渡の際に、原告と植村工務店との間で、原告が税法上の特典を得るため、植村工務店は開発許可の写等を原告に交付することを約していた事実が認められる。

しかしながら、その後の経過について調べてみるのに、本件土地の開発に関し、都市計画法二九条に基づく埼玉県知事宛の開発行為の許可申請書は、丸栄(その代表取締役は、植村工務店と同じ植村文彦である。)が植村工務店の同意を得て昭和五五年二月二六日同知事に提出し、丸栄が同年三月三一日右許可をうけた事実は当事者間に争いがなく、また、いずれも原本の存在及び成立に争いのない甲第五、第八号証、第九号証の一ないし三、乙第一、第二号証及び証人植村文彦の証言によれば、丸栄は、右開発許可申請に先立ち、昭和五四年一〇月四日埼玉県飯能市に対し、「飯能市開発行為に関する指導要綱」に基づき事前協議申請書を提出し、昭和五五年二月八日同市との間に右要綱に基づく協議が成立し、右両者間において覚書が交換されたこと、その後、植村工務店は訴外株式会社加藤運輸建設に対して本件土地の宅地造成工事を発注し、右工事を完了させたが、都市計画法三六条による埼玉県知事の工事完了検査は同年六月一七日丸栄が受け、本件土地の開発行為に関する工事が同法二九条による開発許可の内容に適合していることを証明する、同知事作成の「開発行為に関する工事の検査済証」も同年同月一八日丸栄がその交付を受けていることが認められ、右認定に反する証拠はない。

2  右認定の事実によれば、原告は措置法三一条の二の優遇措置が受けられることを期待して植村工務店に本件土地を譲渡したものであるが、植村工務店が自ら都市計画法二九条の開発許可を受けず、丸栄が右開発許可を受けたものであることが明らかである。

この点に関し、原告は、植村工務店と丸栄とは実質的にも法律的にも一体性を有するものであるから、本件土地の開発許可を受けたのは植村工務店とみなすべきであると主張する。なるほど、両会社の代表取締役が同一の植村文彦であり、丸栄が開発許可を受けたものの、植村工務店が本件土地の宅地造成工事を訴外株式会社加藤運輸建設に発注して右工事を完成したことは前記のとおりであるが、成立に争いのない甲第二、第三号証、原本の存在及び成立に争いのない乙第三ないし第六号証並びに証人植村文彦の証言を綜合すれば、登記簿上、両会社の代表取締役は同じく右植村文彦ではあるが、その余の役員は全く同一というわけではないばかりでなく、その事業目的も植村工務店は建築及び設計の請負を主とし、丸栄は不動産の売買及び仲介と土木建築の請負を主とするものであり、かつ、両会社の本店所在地も異なっていること、また、両会社の経営の実質をみても、植村工務店と丸栄とは同じ事務所を使用してはいたが、別個の会社の看板を掲げており、また、丸栄は古川和郎と植村文彦とが共同出資して設立したものであり、かつ、自社の従業員一名(取引主任者)を雇っており、両会社の収支決算及び税務申告もそれぞれ別個になされていたこと、のみならず、丸栄は前記のとおり本件土地の開発許可申請手続等をしたが、これに関する報酬として植村工務店から一四〇万円ないし一五〇万円の支払を受けていること、丸栄は昭和五五年一二月三一日に解散したが、それは共同経営者である前記古川の提案によるものであることが認められ、右認定に反する証拠はない。

してみれば、植村工務店と丸栄とが実質的にも法律的にも一体性を有するとは認め難いから、この点に関する原告の主張は理由がないというべきである。

3  そこで、以上の認定事実に基づいて、原告主張の本件土地の譲渡が措置法三一条の二(同法附則二条)に規定する「優良住宅地の造成等のために土地等を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例」の適用を受ける場合に当るかどうかについて考えてみるのに、原告から植村工務店が譲渡を受けた本件土地の開発許可は、都市計画法二九条に基づき、植村工務店とは実質的にも別個の法人である丸栄が埼玉県知事より受けたものであること前記のとおりである以上、措置法三一条の二第二項四号の規定に照らせば、開発許可を自ら受けないで本件土地の造成をした植村工務店との間の本件土地の譲渡が同条所定の課税の特例に当らないことが明らかである。

4  しかして、本件における課税長期譲渡所得金額の計算の明細並びに他の所得金額については当事者間に争いがない。

四  しからば、本件課税処分は適法というべきであるから、本件課税処分が違法であるとの原告の主張は理由がない。

よって、本件課税処分の取消を求める原告の本訴請求はいずれも失当であるから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。⑯第五民事部

(裁判長裁判官 糟谷忠男 裁判官 池田徳博 裁判官小松一雄は転任のため署名押印することができない。裁判長裁判官 糟谷忠男)

別表

〈省略〉

物件目録

所在 埼玉県飯能市大字川寺字矢之目

地番 六八番三、六二番三

地目 宅地

地積 一、二八三・六七平方メートル(実測)

(本件売買当時の登記簿上の表示)

一 所在 右同所

地番 六八番三(売買による分筆登記後)

地目 宅地

地積 一、一八〇・八三平方メートル

二 所在 右同所

地番 六二番三

地目 宅地

地積 一〇五・六五平方メートル

以上

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